カウンセラーの選び方(その1)

先日、高崎、前橋、伊勢崎の医療機関の方々と雑談する機会があり、「“野良カウンセラー”って知っています?トラブル増えているみたいですね」といった話題になりました。私は“野良カウンセラー”は知らなかったのですが、調べてみると【スタバで会って説教して患者を号泣させる】【顔見せしない】【自分の経験談ばかり】【数万円の高額請求】などといった話題が出てきて、改めて驚いた次第です。

無論これらは事実関係がわからない点も多いのですが、こうしたトラブルの話は臨床心理士同士の研究会や医療・教育業界では時々聞く話です。「どんなカウンセラーだと信頼できるのか?」という質問は、自分や家族がカウンセリングを受けたいということになった時に一番気になることだと思いまので、自身のオフィス開業にあたり、一度まとめてみようと思った次第です。カウンセリングを受けてみようと思われる方の参考になれば幸いです。

※本稿は私のこれまでの知見、医師・看護師・ケースワーカーなど医療系の資格者、また大学などの教育関係者らから見聞した内容を踏まえたものですが、あくまで主観に基づく個人的なチェックポイントです。これらの条件を満たす人すべてが優れたカウンセラーとは限りませんし、これらの要件に合わずとも能力のあるカウンセラーもいらっしゃるかと思います。その点、何卒ご理解いただければと思います。

《1》資格について: 『臨床心理士』 > 『公認心理師』 ※紛らわしい類似資格に注意!

心理カウンセラーの資格は、相談者(クライエント)に信頼いただくための「最低限の資質保証」といってよいかと思います。そして一番知られていて信頼度が高いとされるのが、『臨床心理士』と『公認心理師』の2つですが、2024年時点では『臨床心理士』『公認心理師』両方持っているカウンセラーがベターということになるかと思います。

『公認心理師』資格は、紆余曲折あってやっと2017年にスタートした心理系の国家資格ですが初期には「移行措置」というものがあり、ペーパーテストがそこそこできさえすればきちんとトレーニングを受けたり経験を積んできたカウンセラーも、そうでないカウンセラーもないまぜに公認される面がどうしても出てきてしまいます。資格は取ったものの専門的な訓練を受けたことがないので期待される役割を果たせないというトラブルは、残念ながら今現在でも医療福祉現場で時折耳にする話です。

また、専門性を確保するための大学での養成過程も十分整備されていなかったりして、私の知る大学関係者は「養成システムとして成熟するまでまだまだ時間がかかるのではないかなぁ」とおっしゃっていました。

『臨床心理士』資格の場合は、指定の大学院で大学附属のカウンセリング施設の他、医療・福祉・教育現場で実習が受けられるなど訓練プログラムが歴史的に成熟しているので、「カウンセラーとしての最低限の資質保証」としてはやはり一番信頼できるといって良いかと思います。

また、こどもの発達障がいの検査や療育に関する領域では『発達臨床心理士』も頼もしい資格です。ただパーソナリティ全般を捉えていく実際のカウンセリングとなると臨床心理学全般の知見とトレーニングが必要となってくるので、こちらは特定領域に特化した資格としてニーズに合っているか吟味が必要になると思います。

【注意点】『公認心理師』は医師や弁護士と同様「名称独占資格」ですので詐称すると法律上の罰則がありますが、『臨床心理士』は「公益社団法人 日本臨床心理士資格認定協会」による民間資格で「名称独占資格」ではありません。よって、ネット上には「臨床心理〇〇協会」「〇〇カウンセリング協会」「〇〇認定カウンセラー」といったかなり紛らわしい類似資格が数多くみられ、心理カウンセラーになりたい人、カウンセリングを受けたい人が詐欺まがいの被害にあうことがあります。これからカウンセリングを受けようとお考えの方は、そのカウンセラーの資格名についてきちんとご確認ください。なお、臨床心理士資格者の団体である「日本臨床心理士会」では、以下の検索システムも用意していますので参考にしていただければと思います。

『臨床心理士に出会うには』

施設検索 | 一般社団法人 日本臨床心理士会

日本臨床心理士会の公式サイト。臨床心理士についての説明や「電話相談」、「研修会」などのご案内を掲載しております。またお近くの臨床心理士の検索も可能です。

《2》経験と専門性について

  • [2−1]職歴:医療、教育、福祉施設、大学などの心理臨床の経験のチェック

カウンセラーの能力でまず重要なのは、「見立て(アセスメント)」の能力になります。身体疾患に例えるなら、癌を風邪と思って対応する医師が信頼できないというのは当然のことかと思います。ですので、医療領域の経験がある程度あるカウンセラーの方が状態把握や危機管理の経験値が高い傾向があり、精神科的症状の治療でない方であっても「見立て(アセスメント」の能力という意味で安心感は高くなるかと思います。

※当オフィスではこの「見立て」について力を入れて丁寧に取り組んでいるため、「初回面接」として90分の時間を設けて面接をさせていただいています。

  • [2−2]カウンセラーとしてのトレーニング歴のチェック

カウンセラー自身が、数年単位の個人スーパービジョン(ベテランの専門的指導者による資質向上のためのトレーニング)の経験を持っているかどうかは、1つの大切な指標になるかと思います。また、定期的に専門の研究会やワークショップに参加しているかどうかも、信頼できる心理カウンセラーの要件として重要ながら一般にはあまり知られていない部分になります。

心理カウンセリングは、曖昧な領域だけに非常に主観的になりやすい仕事です。それゆえ、臨床心理士や公認心理師などの専門資格取得者であっても定期的なトレーニングとセルフチェック、専門知識のアップデートが不可欠です。また、カウンセラー自身が自分の心理的課題をある程度理解し解決していないと、いつの間にか(無意識に)相談者とのやりとりや関係性に悪影響を与えてしまう可能性が高くなってしまいます。

例えば、カウンセラー自身が自分の母親と葛藤的な関係が強く、それらについて個人スーパービジョンも受けたことがないとします。すると母親とどこか似たような相談者とカウンセリングをしていくことになった場合、妙にイライラしてしまったり、腫れ物に触るようになってしまったりして心理支援として役に立たないどころか、場合によっては相談者を深く傷つけてしまうこともあります。こうした問題は、当然専門家としては「相性」で済ませてはならないものですので、個人スーパービジョン経験の有無や定的な研究会などでセルフチェックをしているのか、カウンセラーに質問してみるのも選別のための1つの方法です。

  • [2−3]所属学会や論文実績の有無

カウンセラーの所属している学会のチェックも、専門性の見極めになります。ただ、学会も見せかけだけのもの、あやしいものもたくさん存在している問題があり、運営委員会などの主メンバーがきちんとした大学所属の実績ある研究者が複数入っているかを確認するなど注意が必要です。参考までに、すべてではないですが主要な臨床心理系の学会をいかに上げておきますので、チェックに使っていただければと思います。

[臨床心理系の主要な学会名]

日本心理臨床学会、精神分析学会、日本ユング心理学会、日本認知・行動療法学会、日本人間性心理学会、日本集団療法学会、日本発達障害学会、日本トラウマ・ストレス学会、日本産業カウンセリング学会、日本遊戯療法学会、箱庭療法学会…などなど

医療系:日本児童青年精神医学会、日本心身医学界など

心理学系:日本心理学会、日本発達心理学会、日本パーソナリティ心理学会など

以上、書き始めると長くなってしまうテーマですので、次回「カウンセラーの選び方(その2)」に続きます。